2025/05/17 14:39
山吉商店があるのは、栃木県大田原市の北部、旧・黒羽町にある「南方(なんぽう)」という小さな集落です。八溝山地のふもとに広がるこの地は、山と田畑、そして水に恵まれた、静かな里山の風景が今も息づいています。
すぐ近くには、清らかな川が流れています。草の匂い、鳥の声、虫の羽音がそっと耳をくすぐり、夏には蛍が舞う幻想的な時間も流れます。
あちこちに湧水があり、いまも飲み水や農業用水として地域の人々の暮らしを支えています。わたしたちの焙煎したコーヒーも、この水の恵みによって、よりやさしい味わいに育てられています。
この地域の奥には、臨済宗の名刹「雲巌寺(うんがんじ)」があります。深い杉林の中にひっそりと佇む禅寺で、あの松尾芭蕉も『おくのほそ道』の旅の途中に立ち寄った場所です。石橋を渡り、山門をくぐると、山に抱かれたような静けさに包まれ、時が止まったような感覚を味わえます。地元の人々にも長く親しまれてきた、精神のよりどころのような存在です。
この土地には、都会のような喧騒や便利さはありませんが、水が流れ、山が息づき、人と人とのつながりが穏やかに残っています。
畑を耕すおじいちゃんおばあちゃんの姿は、まるでこの風景の一部のようで、言葉を交わすたびに、昔の知恵やあたたかさを受け取っているような気持ちになります。
そんな南方の里山で、わたしたちは日々の営みを続けています。
山と水と人に寄り添いながら、静かな一杯のコーヒーや一冊の本に、この土地の空気をそっと込めて届けられたらと思っています。


