2025/05/17 14:45


山吉商店は、栃木県の山奥に暮らす夫婦ふたりで営んでいます。

2024年の冬、沖縄からこの地に引っ越してきました。ちょうど雪がちらつく一番寒い時期。

けれど、近くには小川が流れ、春には山菜が顔を出し、夏には虫が鳴き、秋には木々が色づき、冬は薪をくべながら過ごす——そんな四季のはっきりとした暮らしが、静かに心に沁みていきました。

この地域では、おじいちゃんおばあちゃんたちがすぐそばにいて、畑のこと、昔のこと、暮らしの知恵を自然に教えてくれます。子どもも、そんな日々の中でのびのびと自由に育っています。

わたしたちが暮らすのは、築150年の古民家です。もともとは「山吉」という屋号で、酒やたばこなどを扱っていた場所。かつての屋号を受け継ぎながら、今の暮らしに合うかたちで再生していこうと、少しずつ手を入れています。

壁を塗り直し、雨漏りを直し、納屋や蔵を片づけながら、朽ちかけた柱や梁を見つけては、再利用しています。使える古材は丁寧に洗って、棚や扉、什器などに生まれ変わらせています。

誰かの暮らしを支えてきた木材が、また新しい暮らしの一部になる。そのことに、静かな喜びを感じています。

私はデザイナーとして、人や土地の営みに寄り添う仕事をしてきました。沖縄ではものづくりや手仕事に向き合う人々を訪ね、写真を撮り、雑誌やWEBのデザインへとつなげてきました。現在はこの里山の暮らしそのものを写真や文章で記録しながら、焙煎や店舗の空間づくりなど、山吉商店のすべてに関わっています。

妻は東京で16年間、美容師として多くの人と向き合い、髪に触れてきました。その後、家族とともに沖縄へ移住。自然のそばで暮らす中で、生きるリズムや感覚が少しずつ変わっていきました。畑に種をまき、台所に立ち、子どもと季節を歩む日々。今は栃木の山あいで、日々の営みと静かな感性をもとに、「山吉商店」という場所を育てています。

山吉商店は、本とコーヒーを通して、暮らしに寄り添う場所をめざしています。旅の途中の人も、近くの人も、ふと立ち寄って、本を手にとったり、コーヒーの香りに包まれたり。

そんな小さな時間が、誰かの日常を少しだけ豊かにできますように。